魂のゆらぎ「闇の深み」。陰影礼賛の世界が場末の飲み屋にある「ヤマト」。場末にこそ真理あり。 |
阪急中津駅出てすぐ。この店。なにも看板もないが、糖尿病の赤犬でも、すぐわかる立地。ぜひお立ち寄りください。重ねていいますが「濃い人生、濃い酒、濃いアテ」にそぐわぬ御仁はご法度ですぞえ。スタイリッシュ立ち飲みの御仁は、なおさらご法度。場をわきまえてほしい。 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 我が渾身のサイト「立ち呑みの流儀 巻四」より 「何時間の立ち呑みに耐えられるか」 本格立ち呑みの場合は、せいぜいい十五分か二十分。長くても三十分の滞在時間が望ましい。長時間酒が飲みたいなら、居酒屋系の立ち呑みに行けばよい。 思い出すのも懐かしく、そしておぞましい。あれは三十代の後半。仕事で知り合った酒豪U氏。小柄で顔は鈴木蘭々、顔に似合わず喧嘩っ早く気性が激しい。だが、人の道をよくし、心ばえがいい。沖縄の出張で台風に追われ、あわてて帰ったため泡盛の一杯も飲めなかった。無念さのあまり、阪急神崎川近くの沖縄料理店で弾けるように飲んで、いっぺんに意気投合。もう一度時間を気にせず弾け飲みをしようということになった。 二度目の対決を挑む場所を何処にしょう。しばし考えた末、中津の居酒屋立ち呑み「八州一(やしまいち)」を選んだ。勿論、昼酒。ちょっと脱線するが中津という町は酒徒にはたまらない。つまり「安く、おいしい」から。その理由は、こうだ。中津は梅田と十三の中間。どちらにも歩いてすぐ。この地の理の中で生き残るには「梅田よりおいしく、十三より安く」しかない。その中津らしい店がこの「八州一」。実に味の濃い店。立ち席ばかりで十席ほど。吹けば飛ぶような小さな店。奈良産の素朴で黄金色に輝く昔ながらの地酒「八州一」を、アルミのタンポで一合づつ湯せんで絶妙な燗をつけてくれる。黄金色の酒がはえる小振りのガラスコップもいい。あてもなかなか。なかでも、甘辛く真っ黒に煮詰まったようなおでん。煮詰まったようで、実は煮詰まっていない。このおでん、薄味至上主義の関西にあっては異端。でも、このおでんは地酒「八州一」との相性が何ともいい。「ぬ た」「たこ酢」「おから」は舌が生涯忘れ得ぬ味として覚える程。 惚れ込んだ一銘柄「八州一」にとことんこだわり、燗の温度を決め、器を決め、これを基準にして全ての肴の味を合わせる。近ごろ、こんな店とんと見かけない。 先を急ごう。U氏と土曜の二時前、阪急中津駅で落ち合う。敵も気合い、気力とも充実の様子。この店が開く二時、一番乗りの客となる。きちんと整理され準備された店、だが整然とした中にスキがあり居心地がいい。日の高いうちから飲む幸せ。酒を二、三本飲む毎にチェイサ-変わりに小瓶のビ-ルで喉を潤す。時間の経つごとにアルミのタンポがどんどん積み上げられてゆく。肴もだんだんあっさりに。「サラダ」が「煮豆」そして「じゃこおろし」に。やがて「漬け物」から「梅干し」に。揚げ物、焼き物を卒業したころから、店を夜の帳がじんわり包み始める。 外は夜らしい。始めのうちは「個」と「個」が向き合って酒を飲んでいるが、やがてどちらもアルコ-ルで人格が気化しはじめる。やがて、「命あるもの」と「命あるもの」が、時を越えて戯れはじめる。そのうち、人類初源の「おぼろ」な世界に入る。そのうちおぼろは更にもやもやに代わり、最終の段階に入る。人類発生以前の「物質の記憶」の世界をさまよい始める。こうなると、もう「抜け殻」と「抜け殻」がただ丸太のように立っているだけ。やがて、当然の帰結。棒状の丸太はゴロンと倒れるしかない。椅子等に座り安易な気持ちでの飲もう事なら、この酒による精神界の旅行も、途中までも行き着かないだろう。 本気で酒を飲むということは、何とも「すさましい」ものだ。このような酒には、椅子もいらない、奇麗な装飾もいらない。居心地のいい環境は、このての酒には不要、というかむしろ邪魔。イメ-ジの固定化が起こり「おぼろ」世界に旅立てなくなる. つまるところ、本格酒徒のDNAには「モンゴル大草原での輝くような昼酒」のイメ-ジが焼きつけられているのではないか。夜の歓楽街を飲み歩くのは、それはそれでなんとも楽しいが、「酒」を楽しむのではなく「酒」にまつわる雰囲気を楽しんでいることになる。酒の好きな人も、きらいな人も。そして、酒の飲める人も、飲めない人も、みんな仲良く楽しめる。これはこれで、すばらしい文化だ。進化というものか。 延々と、八時間。立ったままの八時間。昼の二時から夜の十時まで。酒に遊び、幽界に遊んだ二人の末路はこうだ。私はなんとか、夜中にJRの大阪駅ガ-ド下で我に返り歩いて当時の十三の家にたどりついた。U氏は、翌朝自分の部屋で、自分を発見したそうだ。服はボロボロ、どろどろだったそうな。あとで大分経って聞いたことだが、彼はそのあと二日ほど会社を休んだそうな。 ●人気blogランキングへ クリック、たのんますなあ。 ランクアップが「次を書き込む」原動力。 |
by tatinomi1
| 2005-11-27 15:22
| 立ち呑み名店
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